ギリギリのところで、形勢が逆転した。火傷を負ったカンダタに、反撃の様子はない。
とはいえ、ぼくのほうも、フルカスに肩を借り、やっと立ち上がれるような状態だった。
「ちっ、仕方ねぇ……。探し物は、そこの宝箱の中だ。勝手に持ってきな」
床にのびている子分たちに目をやり、カンダタは吐き捨てるように言った。
「オーブ……、もあるのか?」
「オーブだぁ? そんなもんあったら、ここにはいねえよ」
言い方からすると、カンダタもオーブの存在を知っている。
底の知れない男だ、と思った。剣技では、ぼくはカンダタに太刀打ちできなかった。こちらを殺す気などなく、ある程度痛い目を見せて、諦めさせるつもりだったのだろう。
部屋の隅には、衣装箱ほどの大きさの宝箱があった。鍵が掛かっていたが、フルカスが剣の柄で叩くと鍵は簡単に外れた。
宝箱の中には、数多の宝石に埋まるようにして、金の冠が入っていた。その傍に、ひときわ輝く長方体の赤いルビーがある。
ルビーを手に取り光にかざすと、どういう仕掛けか、内側に妖精の像が映って見えた。下に、四つ折りにした古い手紙が一緒に置かれている。
『わたしたちはエルフと人間
この世で許されぬ愛なら、せめて天国で一緒になります
アン』
この世で許されぬ愛なら、せめて天国で一緒になります
アン』
手紙には、そう書かれていた。
エルフと人間 そこで、ふと、カザーブで聞いたノアニールの話を思い出す。
ほんの少しの間、ぼくたちは宝箱に意識が向いていた。なんとその隙に、忽然とカンダタの姿が消えていた。
ここは塔の最上階。通路を見回しても、誰もいないばかりか足音も聞こえない。
窓辺を確認し、頑丈そうな縄が地面に届くほどに垂れ下がっているのに気付く。どうやら、見事に逃げられてしまったらしい。