2021/07/25

12. 酷暑

【アリアハン暦 1274年9月中旬】

 砂地を行くのはきつい。街道を歩く何倍もの体力が奪われてしまう。

 何よりも参るのは、この暑さ。夏の盛りは過ぎたとはいえ、まだ毎日猛暑が続いている。砂漠を渡るには最悪の季節だ。朝から気温はぐんぐん上がり、昼下がりには息苦しいほどの暑さになった。

 乾いた熱い風が吹いて、足元からは太陽の熱が照り返す。体が焼かれるような感覚。
 流れる汗で砂が肌に貼りつき、不快感を殊更高めた。

「あちぃー! なんて暑さだよ」
「飲みすぎるなよ。まだ先は長いんだ」

 喉を鳴らして水筒から水を飲むカダルに、フルカスが釘を刺す。

 水は小分けして、多めに持ってきた。イシスに着くまで大丈夫だとは思うが、砂漠では何が起こるか分からない。

 砂嵐が吹き荒れて、数日間一歩も進めないこともあった。疲れきったぼくたちの様子などお構いなしに魔物たちは襲ってくる。

 砂嵐が過ぎた夜、地獄のハサミと呼ばれる巨大なカニが野営地に押し入ってきた。砂漠の魔物は、守りが堅く厄介なやつが多い。

 カダルはカニの硬い甲羅の守備力を下げる呪文を唱えた。火を絶やされ、明かりのない暗闇の中、魔物の気を察知して突きを繰り出すフォン。

 敵の姿が見えなくとも、フルカスは裂ぱくの気合いを込めて、剣を振り下ろす。脆くなった魔物の甲羅は、一撃で音を立てて砕かれた。
 フルカスの剣は、一段と威力が増したようだ。


イングリッシュパーラー