2021/07/10

6. 宝珠(オーブ)

【アリアハン暦 1274年4月20日】

 街の大通りをまっすぐ進んだところに、ロマリア城がある。見事な彫刻が施された真っ白い城門、頑丈そうな吊り橋。
 アリアハン城も美しく荘厳だが、この城はそれ以上だ。

 街は、最近、カンダタという盗賊の噂で持ちきりだった。
 ロマリアの城までも盗難に遭い、城内の宝物をごっそり持ち去られたという。あろうことか、王の象徴である金の冠までも。

 カンダタは、西にあるシャンパーニの塔を根城にして、付近の町や村を荒らしまわっているらしい。貴族や金持ちばかりを狙うので、巷では義賊ともてはやす者もいる。

 ロマリア王チャトブラン三世はアリアハン王の盟友。父さんも、ロマリア王とは面識があったと聞く。

 恰幅がよく、黒い鬚をたくわえたロマリア王は、どこかいたずらっ子のような雰囲気だった。そしてぼくの顔を見ては、本当にオルテガに似ている、と何度も仰られた。

「アレルよ。わしは前からそなたのような若者を跡取りにと思っておったのだ。どうじゃ、ここに落ち着き、わしの代わりに国を治めてくれぬか」

 いきなりそう言われた時には、驚いたなんてものじゃない。本当にこの王様は冗談好きで気さくな方だ。

 それでも、カンダタの話になると、眉間にしわを寄せて表情を曇らせた。金の冠だけでなく、カンダタは世界中の貴重な宝を盗み集めているという。

 父さんは旅の途中にロマリアへ立ち寄り、『オーブ』を探すため、イシスの国へ向かうと告げたそうだ。ネクロゴンドへ行くには、オーブが必要なのだとか。

 金の冠を取り戻して欲しい、もしかすると、父さんが探していたオーブもカンダタに持ち去られているかもしれない。
 真剣な顔で王にそんな風に頼まれては、さすがに断るわけにはいかなかった。


イングリッシュパーラー