2021/07/18

11. アッサラーム

【アリアハン暦 1274年8月中旬】

 父さんが向かったというイシスの国。
 ロマリア王の話によると、イシスのピラミッドにはたくさんの宝物が眠っているのだとか。父さんは、オーブがそこにあると見当をつけたのだろう。

 アリアハンを発って、すでに四ヶ月が過ぎていた。海峡を越え、北大陸から中央大陸へ。

 イシスへ行くには、砂漠を越えることになる。
 途中、重装備のキャラバンに出会った。キャラバンは、商人の他、護衛のために雇われた戦士や魔法使いたち、総勢20人ほどの大規模なもので、12頭のラクダを従え、その背に様々な武器や防具を積み込んでいた。

 キャラバンの隊長はフルカスと同じくらいの年で、大柄な戦士だ。彼は、砂漠の魔物は強いので気をつけろ、と忠告してくれた。今のぼくたちの装備では心もとない、とも。

 隊長が見せてくれた大ばさみという武器は、大きな刃が二枚ある。重過ぎてぼくには使いこなせそうにないが、フルカスはその武器に興味を持ったらしい。


【アリアハン暦 1274年9月1日

 ロマリアを出発して22日目。
 日が西に傾く頃、イシスとの中継地点、アッサラームに到着した。

 この街はさまざまな店が立ち並び、とても活気に満ちている。夜になるとさらに賑わい、明け方まで楽しめる歓楽街だという。

 武器を探しに、ぼくたちは派手な看板を掲げた武器屋を覗いてみた。

「おお、ワタシの友達! お待ちしてました!」

 五本の指すべてに華美な指輪をはめた中年男が、もみ手をしながら店の奥から現れた。  身なりも態度もなんとなくうさんくさい上、店にある品も、とんでもない高値が付けられている。

 大ばさみが8000ゴールド。キャラバンの隊長が教えてくれた相場とは、ほど遠い金額だ。フルカスのために買いたかったけど、こんなに値が張るんじゃ、とても手が届かない。

 武器を諦め、宿屋の手配を済ませた頃には日が暮れかけていた。
 物珍しく思いながら、ますます活気づいていくアッサラームの街を仲間たちとともに散策する。
 夜にこんなに賑わっているなんて、アリアハンでは考えられない。

 ひときわ大きな店は、街の中心にあるナイトクラブ。中を覗いてみると、ルイーダの酒場とは比べ物にならないほど広い。
 前方に設けられた舞台の上では、ベリーダンスが始まっていた。

 舞台の近くは既に満席状態だったものの、壁際のテーブルが空いていると言われ、よく分からないうちに椅子に座っていた。踊り子たちと観客が醸し出す熱気に、頭がのぼせそうになる。

「そら、冷えててうまいぞ」
「……ビアーだろ、それ」

 躊躇するぼくのグラスに、フルカスが琥珀色の飲み物を注ぐ。
 アリアハン法では、成人と認められるのは十六歳。法律上、ぼくは酒を飲める年齢に達している。アッサラームではどうか知らないが、この場所に咎められず入れたことを思うと、おそらく大丈夫なんだろう。

 ぼくはビアーを少しずつ口に入れた。初めて飲む冷たいそれは、火照った体に染み渡り、喉を潤してくれる。

「あんたは駄目よ、カダル」

 ワインに手をのばそうとしたカダルは、フォンにグラスを取り上げられた。十五歳のため、あとわずかに年齢が足りない。

「ひでえっ! 俺だって、アレルとそんなに違わないのに」

 ジュースを押し付けられ、カダルが不貞腐れる。正直、酒はそんなに美味しいと思わないので、ぼくもどちらかというとジュースのほうがいいんだけど。


イングリッシュパーラー