【アリアハン暦 1274年9月24日】
イシス砂海をほぼひと月かけて進み、ようやく目指す緑の地が視界に入った。
砂漠の中、オアシスに囲まれた緑ある国、イシス。
代々女王によって治められてきたこの国は、かつて世界を巻き込んだ戦争にも不参加を表明したという。砂漠の中にあり、孤立している反面、平和が保たれた国だ。
街には、人々の命を支える貴重な水源として、ところどころに井戸や泉が作られている。
イシスの女王パトラは、長く艶やかな黒髪が白い肌と見事な対照をなす、絶世の美女だった。
女王の美貌は、国の宝。街でそんな声を耳にしたが、それも頷ける。けれど女王自身は、華やかな評判とは裏腹に、どこか寂しげな微笑を浮かべていた。
謁見したぼくたちは、旅の目的を話し、オーブについて尋ねた。
何年か前、父さんもこの城にやって来たという。女王もオーブのことは知らなかった。ただ、歴代の王たちの墓であるピラミッドには多くの宝物が納められており、副葬品にオーブがまぎれている可能性もあるとのこと。
「父は……オルテガは、ピラミッドを探したんですか?」
「いいえ。あの方は、王の眠りを妨げたくないと仰って、別の場所へ行かれました」
女王はとても切なそうな眼差しをぼくに向ける。
オーブ探しをいったん切り上げ、父さんは、サマンオサの勇者サイモンと合流すると女王に告げたそうだ。
ピラミッドの中は、今や多くの魔物が巣食う。墓荒らしのようなまねはしたくないけど、せっかくここまで来たのだから、確かめておきたい。
女王の許可をもらい、ぼくたちはピラミッドを探索することにした。
幕間:女王パトラの追想
ピラミッドには数々の副葬品が収められている。その中にオーブがあるかどうか、私にも分からない。
歴代の王たちが所持していた数多の宝物は、誰も目にしたことがない。秘密を守るために、ピラミッド建設に関わった多くの人々の命が奪われたから。
なんと呪わしいことか。ピラミッドが魔物の巣窟と化したのも、当然の報い。
王たちの念が、魔を引き寄せたのだろう。
――アレル。この少年は、やはりオルテガ様とよく似ている。
サマンオサの勇者サイモンと落ち合うため、ギアガの砦に向かうと言われ、イシスを去って行かれたオルテガ様。癖のない黒髪。引き込まれそうな双眸。意思の強そうな口元。全てがそっくり。
思い返し、涙がこぼれ落ちた。私は人知れず涙を流す。
オルテガ様の死の報せを受けた、あの時のように。