2021/07/11

7. カザーブの村

【アリアハン暦 1274年5月中旬】

 ロマリア西部には、険しいロマリア山脈が連なる。カンダタが潜伏しているシャンパーニの塔へ行くには、北回りに迂回しなければならない。

 ロマリアの近衛隊と対策を練り、北にあるカザーブの村を経由して行くのがよいという話になった。
 隊を率いて一緒に行くと言い張る近衛隊長を押し留め、ぼくたち4人だけで向かうと告げる。大勢で動くのは、あんまり得策じゃない。

 ロマリアで食料と馬を調達し、まずはカザーブを目指す。
 街を出てすぐに、イモムシのような形のキャタピラーとゾンビ化した野犬バリィドドッグの群れに襲われた。

 バリィドドッグは、こちらの守備力を下げるルカナンの呪文を使う。奴らの鋭い爪で、革の鎧は簡単に引き裂かれた。
 この付近は強い魔物たちが出没する。魔物に苦戦を強いられ、予定より数日遅れてカザーブの村に着いた。

 カザーブは、フォンの生まれ故郷。山間のわずかなすきまにあるその村は、とてものどかだった。


幕間:フォンの追想

 カザーブには、たくさんの思い出がある。孤児だったあたしを育て、拳法と気功術を教えてくれたのは、名高い武闘家だったキライ老師だ。

 老師はことあるごとに、あたしに言った。
「いつの日か、闇払う勇者が現れる。その時、お前の力が必要になるのだ」と。

 子供の頃は、その意味が分からなかった。分からなくても、拳法が好きだったから、修行に励んできた。

 そして老師は、あたしにアリアハンへ行くよう告げた。老師が既に病魔に身体を蝕まれていることを、あたしは気づけなかった。

 故郷を訪れたところで、老師はもういない。勇者も、運命も、関係ない。あたしは自分の力を試したいだけ。

 それでも、こうして勇者オルテガの息子と旅をしているのは、少しでも老師への恩返しになるかもしれない。


イングリッシュパーラー