2021/07/28

14. ピラミッドの迷宮

【アリアハン暦 1274年9月26日】

 ピラミッドへ向かうにあたり、イシスの女王は、内部は危険だからと、一振りの立派な剣をくれた。剣先が斧のような形をした『雷神の剣』。
 アッサラームで買うことができなかった大ばさみより強力な武器だ。大き過ぎてぼくには扱えないが、フルカスにはちょうどいい。

 街で水を補給し、装備を整え、再びぼくたちは熱砂に踏み出した。
 ピラミッドまでは、魔物に襲われることなく行き着いた。近くまで行くと、石造りのその建造物はあまりにも大きく、思わず息を飲む。
 一体これを作るのに、どのくらいの年月を費やしたことだろう。

 ピラミッドの内部は、外の暑さが信じられないくらいにひんやりしていた。
 カビくさく、陰湿な気配。どこか、死の匂いがする。

 迷路のようになった薄暗い通路を、松明をかざして慎重に歩いていく。なにせ、落とし穴や無限回廊といった罠が随所にある。地図にしるしを付けながら、自分たちのいる位置を割り出して進んだ。

 魔物もあちこちに潜んでいた。窪んだ眼窩の、死に切れない屍。魔の命が吹き込まれた、マミーと腐った死体だ。

 フルカスが雷神の剣を唸らせると、パチパチと稲光が走った。フォンの回し蹴りが腐った死体を直撃し、カダルが真空呪文バギマを放つ。戦いの熱気に刺激されたのか、ユラユラと揺らめく怪しい影までも次々と集まってきた。

「走ろう、キリがない!」

 怪しい影を斬り裂き、ぼくは皆に叫ぶ。
 狭い通路は、淀んで胸が悪くなりそうな空気が充満していた。おどろおどろしく、粘ついた空間。こんな場所に長居すれば、判断力も鈍る。ミイラ取りがミイラになりかねない。

 魔物と濁った空気と戦いながら進んでいくうち、ようやく通路が一本道になった。
 辿り着いたのは、大広間のような場所。そこに幾多の棺と宝箱があった。ところが、宝箱はどれも空っぽ。すでに墓荒らしに持ち去られたらしい。

『ファラオの眠りを妨げるのは誰だ……』

 ふいに頭の中に直接届くような、低いうめき声が聞こえた。次いで、棺から王たちのミイラが一斉にゆらりと立ち上がった。

 骨と皮ばかりの亡骸。王たちも魔物と化している。ピラミッドにはとてつもない邪気が満ちているのだから、無理もない。
 朽ちた体は、ただ侵入者を追い払うためにだけ機能する。哀れな妄念の塊だ。

 ぼくは強く握った右の拳に力を集め、ベギラマを唱える。掌から放たれた火炎は、炎の壁となってミイラたちを取り巻いた。 
 聖なる火によって、今度こそ彼らの魂が天に召され、心の平穏が訪れるようにと願う。

 のんびりしてる暇はなかった。充満する黒煙の中を抜け、ぼくたちは出口へと走る。
 どうにか外へ出た途端に、今度は砂漠の太陽が肌をじりじりと焼きにかかる。

 仲間たちは皆、ぐったり疲れた顔をしていた。ぼくもまた、額の汗を拭って、小さく溜息をつく。
 結局、ピラミッドにオーブはなく、まったく無駄足だった。


イングリッシュパーラー