盗品の詰まった宝箱を馬の背に積み、シャンパーニの塔を後にして、ロマリアへ戻る。
妖精の姿が映るあの不思議なルビーは、『夢見るルビー』だと文献で分かった。もとはエルフの至宝らしい。
いつどうやってカンダタの手に渡ったのかは分からないものの、残された手紙から、エルフの娘が持っていたのだろうと推測できる。
当初は、まっすぐイシスへ行く予定だったが、夢見るルビーをエルフに返さねばならない。とはいえ、エルフの隠れ里の場所など見当もつかないし、唯一の手掛かりはノアニールの村にある。
礼をしたいからと王に引き止められ、数日ロマリア城に滞在した後、ぼくたちはノア二ールへと向かった。
【アリアハン暦 1274年6月下旬】
カザーブの北、北大陸北西の半島に、ノア二ールの小村があった。
朝靄のかかる中、村に入って、言葉を失ってしまう。
そこは、まさに動くものが何一つない、止まった村だった。風の流れさえも感じられない。
道の真ん中で、店先で、村人や動物たちがすべてが眠っている。死んでいるわけではなく、みな仮死状態だ。
通りに面した広場には、手を取り合ったエルフと人間の彫像が建てられている。
『エルフと人間の交流を願って』
碑文に刻まれているのは、ノアニールの村人たちの願いだろう。
ぼくは、アンの手紙と一緒に、夢見るルビーを像の前に置いた。いつかこの彫像のように、エルフと人間が仲良くなれる日が来ればいい。そう祈りながら。
幕間:ノアニールの司祭
長きに渡り、時を止めていたノアニールの村が再び動き出したのは、四人の旅人たちのおかげだろう。
彼らは、この村が目覚めるほんの少し前に、村を去ってしまわれた。村全体の時間が進み出したその瞬間を、彼らが目にすることはなかった。
そして、眠りから覚めたノアニールが、これから受けることになる様々な試練もまた、知る由もない。
止まっていた時間はあまりにも長く、そのため、目覚めた後の揺り返しがどれほどのものか。外界の者には想像もつくまい。
我々ノアニールの民は、厳しい現実に耐えていかねばならぬ。
といって、あの四人の旅人を恨んでいるのでは、決してない。
止まった時間は、いつかは動く。穏やかな眠りの時間が長ければ長いほど、夢の終わりに待ち受ける痛みは大きいものだ。
彼らには、心から感謝を捧げたい。時間から置き去りにされていた、このノアニールを救ってくれた若き勇者たちに。
どうか、ご武運を。