2021/08/09

20. 海賊船

【アリアハン暦 1274年12月22日】

 ダムスの口添えで、彼の商人仲間の持ち船に乗せてもらい、十日前にバハラタの港を出た。
 カンダタの情報によれば、ランシールに、オーブかもしれない宝石がある。商人船が向かう地はランシールではないものの、同じ方向なので近くまで行けるなら充分だ。

 穏やかな航海が続いていた中、右舷からまっすぐこちらに向かってくる一艘の船に気づき、ぼくは眉をひそめた。警告を出しても、こちらの船に急接近してくる。

 商人船は不審に思い、全速力で振り切ろうとした。しかし、見る間に追い付かれ、船を横付けされてしまった。どうやら、海賊船らしい。
 
 縄ばしごをかけ、手際よく次々と海賊たちが甲板に乗り込んでくる。人数は30人程。商人は皆、両手を挙げて服従を示した。
 立ち向かえないこともなかったが、彼らに危害が及ぶ恐れがある。ぼくたちも抵抗せず機を窺うことにした。

 海賊の中にひとり、二十歳ぐらいの若い女がいて、値踏みするようにこちらを見つめている。その視線とかち合うと、彼女は白い歯をのぞかせて笑った。

「安心しな。お目当ては積荷でも、あんたらの命でもないからさ」

 短く髪を刈り込み、日に焼けた健康的な美女。海賊たちから「姐さん」と呼ばれているところを見ると、頭目なのかもしれない。
 彼女は、商人に手を出さない代わりに、ぼくたち四人に海賊船に来いと言う。

 否を言える状況ではない。バハラタの商人たちに、ここまで乗せてくれた感謝と詫びを伝え、ぼくと仲間たちは海賊船に乗り込んだ。

 てっきり捕虜になったと思い、反撃する隙を狙っていたのだが。
 海賊の女頭領だというオルシェは、意外な種明かしをした。

 驚いたことに、オルシェとカンダタは顔馴染で、ぼくたちを手伝ってやってくれと、カンダタから頼まれたそうだ。若干方法は荒っぽかったけど、海賊たちはオーブ探しに手を貸すために、商人船を止めたわけだ。

 タニアさんをバハラタへ送り届けた後、カンダタは子供たちが待つ聖なる洞窟へ戻って行った。ぼくたちには何も言わず、影で動いてくれたのだろう。

 そう思うと、じんわりと感謝の気持ちでいっぱいになる。
 盗賊だったカンダタ、海賊のオルシェ。人から物を奪うこと、それ自体は悪いことに違いない。けれど、彼らなりの正義を持っている。

 生きていくために、きれいごとだけではやっていけない。人には、いろいろな生き方がある。旅を続けていくうちに、時々ふと疑問が頭をかすめるようになった。

 正義とは、何なのだろう。そして、ぼくは本当に「勇者」なんだろうか。


イングリッシュパーラー