タニアさんが行方不明になって、すでに10日経つ。
バハラタ近くの森の中、精霊に守られ、唯一魔物が寄り付かない場所。そこに、人さらいの住処と噂される洞窟があった。彼女がいるとすれば、その洞窟だ。
洞窟はすぐに分かった。とはいえ、中に踏み込んでいいものか躊躇してしまう。
しばらく外から様子を窺っていると、洞窟の奥から若い女性が姿を見せた。
水汲みに出てきたその女性は、木の桶を右腕に抱えながら、もう一方の腕で松葉杖をついている。足を痛めているらしい。
女性は普通の町娘で、人さらいの仲間には見えない。
「あの、タニア……さん、ですか?」
「え、はい、そうですが」
ぼくたちは事情を話し、ダムスがバハラタに戻ったことを伝えた。タニアさんは恋人の無事に安堵し、目に涙を浮かべている。
薬草を摘んでいた時、彼女は崖に転落し、この洞窟に住む男に助けられたそうだ。命に別状はなかったが、怪我で歩くことができず、洞窟で養生させてもらっているのだという。
「みんな心配してるだろうと思ったのですが……。少し歩けるようになったので、カンダタさんに頼むつもりだったんです」
涙を拭いながら、タニアさんが言った。
思わぬところで出た思わぬ人物の名に、ただ呆気に取られる。カンダタとは、あのカンダタなんだろうか。
「……タニア姉ちゃん、誰か来たのか?」
突然洞窟から10歳くらいの少年がひょっこり顔を覗かせた。
「ええ、バハラタから私を探しにきてくれた人たちなの。警戒しなくて大丈夫よ、リト」
タニアさんがそう説明すると、リトと呼ばれた少年はジロリと鋭い目でこちらを睨んでくる。
「バハラタから、って。親父を捕まえに来たんじゃないのかよ」
少年の言う「親父」とは、カンダタのことらしい。
タニアさんは、森で怪我をしたり飢えた身寄りのない子らをカンダタがこの洞窟で保護しているのだと、教えてくれた。
カンダタは人さらいをしてるわけじゃない。シャンパーニの塔を出た後、盗賊から足を洗い、この地で子供の面倒を見て、人助けをしていた。
あまりに意外な事実に、ぼくたちは言葉もなかった。
