【アリアハン暦 1274年11月23日】
ポルトガを発ってからひと月後、広大なバルト河を前にしたとき、思わず感嘆の溜息がもれた。この大河の川幅は、アリアハン城がふたつは建てられるほどに広かった。
河辺を住処にしているドルイドや、凶暴な巨大猿のキラーエイプ。出没する魔物たちも多く、確かに護衛でもいなければ、普通の行商で陸路は危険過ぎる。
バルト河を川沿いに1日ほど歩き、ようやくバハラタの町に到達した。
町中では、緩やかな河のところどころで沐浴をしている人を見かけた。ダムスが言うには、あれは身を清める「みそぎ」と呼ばれる習わしらしい。
道具屋を営むダムスの家では、母親が息子の帰りを一心に待っていた。何ヶ月ぶりかで戻った彼を、ダムスの母親は涙ぐんで抱きしめる。
その姿に、アリアハンにいる母さんの姿が重なり、ちくりと胸が痛む。きっと、母さんもこんなふうにぼくのことを待っているんだろう。
ダムスの母親は、ぼくたちに何度も感謝の言葉を述べた後、ふっと表情を曇らせた。
「実は、タニアのことなんだけど……」
「タニア? 彼女に何かあったの!?」
言い淀む母親に、ダムスは顔色を変えて問い詰める。それは、ダムスにとってひどく衝撃的な話だった。
10日程前、彼の恋人タニアが、薬草を摘みに森へ出かけたきり戻って来ないのだという。
魔物に襲われたのか、あるいは人さらいに遭ったのか。
最近、バハラタ近辺で、親のない子供たちがいなくなる事件が起こっているとのこと。そのため、森に人さらいが住み着いているのだと物騒な噂が広まっていた。
助けに行くと言い張るダムスに、ぼくたちがタニアさんを必ず連れて帰るから、町で待っているようにと説き伏せる。ダムスはしばらく一緒に旅をした仲間だ。放ってはおけない。
居ても立ってもいられない気持ちはよく分かる。でも、同行に簡単に応じられるほど安全な場所でないことは、ダムスも、いやむしろダムスの方がよく分かっているに違いない。
