【アリアハン暦 1274年4月中旬】
魔物の出没により、海を越えられる連絡船が廃止になって久しい。
アリアハンには、大海に乗り出すような大きな船はなく、唯一大陸に渡る手段がレーベにある。
レーべは、アリアハン大陸北部にある山間の小さな村だ。
ずっと昔、父さんに連れられて一度訪れたことがあるものの、小さい頃だったのでほとんど覚えていない。
ぼくたちは、レーベを目指してアリアハン街道を北上した。
途中の村で泊まることもあったが、夜はほとんどが野宿。まだ朝晩は寒く、肌があわ立つ。
歩きづくめの毎日で、アリアハンを発ってから10日が過ぎていた。
「あ、いてて……」
休憩を取っていると、カダルが靴を脱いで顔をしかめた。見れば、まめがつぶれている。ぼくは皮袋から軟膏の薬を取り出して、カダルに放ってやった。
「これ、わりと効くから。塗っておくといいよ」
「サンキュ。でも、ホイミは得意なんだ」
カダルは大岩に腰掛け、自分に向けて回復呪文を唱える。
さすがに、フルカスは近衛隊長で体を鍛えているし、フォンははるばるカザーブの村からやってきて、長旅に慣れているらしい。
空腹に、野営に、疲労。ぼくにとっては、旅そのものが強敵だった。
魔物に襲われることも、何度かあった。最初に気配に気付くのは、いつもフルカスとフォン。二人は、豊富な闘いの経験と知識を持っている。
大がらすの群れに遭遇した時、ぼくはただ力任せに銅の剣を振るった。
「アレル、大振りするな! 隙ができる」
自分が戦っていてさえ、フルカスはこちらに気を配る。一匹目は倒せたものの、その直後に突っ込んできた敵に、ぼくは完全に無防備になった。
まずい、と思っても、反撃できる体制じゃない。金切り声と共に、大がらすの鋭いくちばしが肩口に食い込んだ。
バギマを唱えるカダルの声と、魔法の働く気配。目に見えない真空の刃が、魔物たちを葬り去った。
「ありがとう、助かった……」
「動くなって。ひどい傷だ」
ホイミは得意だと言ったカダルが、回復魔法をかけてくれる。
アリアハンを出る前は、剣技や魔法の修行を積み、毎日カインと手合わせもしていた。
ある程度、魔物と渡り合える自信はあったのに。実戦はまったく別物だと、戦闘のたびに思い知らされる。