【アリアハン暦 1274年4月1日】
その月の満月の日、ぼくは16の誕生日を迎えた。
旅立ちの許可を得るための手紙は、あらかじめノヴァク王に渡してある。旅の供を付けると言われ、城に来たものの、その人はルイーダの酒場で待っているらしい。
親友のカインは、お前なんかにオルテガ様の代わりが務まるものか、と言う。憎まれ口をたたいても、心配してくれているのだと分かっていた。
今まで育ってきた街アリアハン。そして母さん。別れが寂しくないと言えば嘘になる。それでも、ぼくは行かなきゃいけない。
皆への挨拶を済ませた後、母さんと身近な人たちだけに見送られて家を出た。あまり大袈裟にして欲しくなかったから。
(……さよなら)
言葉には出さず、心の中だけで呟く。高揚感と不安が同じくらいの比重で、ぼくの心を占めていた。
ルイーダの酒場には、世界中から冒険者や戦士たちが集う。
酒場の中に入ると、見るからに屈強そうな戦士が、「こっちだ」と手を振った。髪を短く刈った、アリアハン王宮の近衛隊長フルカス。歳は25、6だろうか。
フルカスと同じテーブルに、ぼくと同じくらいの歳の少年と少女がいた。
少年の方は、アリアハンには珍しい亜麻色の髪を持ち、僧服をまとっている。少女は、武闘着に黒髪を両耳の上で結わえ、活発そうな瞳をこちらに向けた。
「これから旅の仲間ね。よろしく」
旅の同行なんて、とんでもない。驚いたぼくは、もちろん断った。
これから向かうのは、海向こうの遥か遠くの大陸、魔王バラモスが居を構える地、ネクロゴンドだ。
これから向かうのは、海向こうの遥か遠くの大陸、魔王バラモスが居を構える地、ネクロゴンドだ。
決して楽なものではないのに、二人の決意は固いようで、頑として譲らない。
困ってフルカスを見れば、苦笑を浮かべてぼくの返事を待っている。
先程デスストーカーが酒場に現れ、ひと騒動あったという。三人のおかげで、幸い大事にならずに済んだのだと、酒場の女店主ルイーダさんが教えてくれた。
説得できるものなら、とうにフルカスがしているだろう。
こうして、戦士フルカス、武闘家フォン、僧侶カダルと、ぼくに三人の旅の仲間ができた。